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2004年1月19日付

冒険小説そっくりの船

第5回

3月28日・晴れ・23度
 エンジンが止まったので、目がさめた。まだ夜は明けきらず、暁の空には星が残っていた。私は防水ジャケットを引っかけ、船室からデッキに出た。船は止まっており、錨をおろすガランガランという音が響いた。ブリドポートの灯が2キロ先に見えた。船はここでも満潮を待つのだ。
 それにしても船長も船員もタフなので、私は驚いた。昨日の未明にレデイバロンに着いて荷を下ろし、そして休む暇もなく荷を積んだ。積み込みは、出航寸前の夜九時まで作業が続けられた。小さな貨物船なのでクレーンを操作したり、フォークリフトの作業まで船員がやる。船長も作業着に着替え、オイルまみれで仕事を続けた。船員といっても数人だが、私が船長室へ出航の時間を聞きに行った時は、コーヒーブレイクで一息入れた、航海士もツナギの作業着姿で「わしゃ疲れたよ」と言って笑った。
 「よく働きますね、日本人も脱帽ですよ」と私が言うと「いや、イースターが始まるからね、仕事を片付けちゃわんと、ならんのだよ」と船長が言った。
 イースターはここでは、日本のゴールデンウイーク「5月の連休」みたいなものである。
 「子供と、キャンプにでも行くんですか?」と聞くと、航海士が「動物園に連れていく約束したよ」と言った。どこの国の親も同じだ。
 休む間もなく、夜10時に船は出港した。港は浅く、下手をするとスタックするので海洋に出るまで、操船は大変だ。この船は、そのために平底で、操船が自由に出来るように舵輪はなくて、小さなコントロールレバー(大きさはネジまわしぐらいしかない)が、コクピットの中央と、左舷と右舷のドアのすぐ近くにあるので、スキッパー(操舵手)は操船が楽だ。
 船員が水深と、岸までの距離をチェックしスキッパーに大声で伝える。時には水深の関係で岩から数メートルの所をギリギリで抜ける。見ていてもハラハラする。
船長がベットに入るのは、海洋に出てから、ブリドポートの沖合い2キロまでだ。私がデッキに出たら、すでに船長は起きて操船していた。
 船長帽はいつもかぶっていなくて、ジーンズにスポーツシャツとデッキシューズというスタイルだが、潮気が体中から、にじみ出る老練な船乗り。まさしく海の男だ。60歳くらいか?全く飾り気も何もないが楽しい人だった。余計な事はしゃべらず、だまって海を見ている。そんな感じだ。航海士はまだ若い感じのする中年男で、スイス・アンデイーナで一緒だったヘルマンさんによく似ていた。船長帽と船員服が、きまっていた。長髪を後ろで束ねている。
 船員はこれ以上、汚れようのないくらい汚れたツナギの若者と、いつも血の気のない顔になぜか赤い薄い唇の男。酒が体液の80%くらいのタフで老いた船乗りの3人だけだった。この船は、海洋冒険小説に出てくるもののすべてを備えているように私には思われた。乗っているのが楽しくなる船だった。

(写真=タスマニア島で見た人面岩と筆者)

著 者 紹 介
 栗岩英彦さん(59)の「オーストラリア自転車の旅・パートU」をシリーズで掲載します。栗岩さんは長野県出身。東京農大卒。会社員生活のあと「世界一周の旅」を目指しインド、アフリカ、アフガニスタン、パキスタン、ヨーロッパ、南アフリカなどを訪問。平成3年下川へ。7年から北町でレストラン「モレーナ」経営。14年2月から4月までオーストラリアのタスマニア島(州)を自転車旅行。同島は北海道とほぼ同じ面積。旅行記は同島に近い小さなフリンダース島から始まる。

[ 2004-01-18-18:30 ]
 
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2004年1月

第1回「旅先で知り合い食事」
第2回「大魚に戦いを挑む」
第3回「村に1軒のレストラン」
第4回「友人と別れ、また一人旅」
第5回「冒険小説そっくりの船」
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